屋上から見えた風景は、もちろんのことではあるけれど、いつものキャンパスとは違って見えるわけで、鬱蒼と木々が茂る一帯は、地面が見えないせいで果てしない森の一角のようにも思われた。近くでは学祭が近いせいか、いくつかのバンドのドラムの演奏がうるさく響き渡っていた。向こうのビルの屋上には、カラスの群れが一定の時間おきにやってきては、群れをなして旋回し、しばらくしてはまた居なくなった。屋上を覆うむき出しのコンクリートの上に横になると、ひどく自分が哀れに感じられた。しかしながら、同様に寝転んだ彼女の横顔をみると、別に馬鹿なのは僕だけではないという風に思えなくもなかった。屋上付近の入り口ではそんな馬鹿をやっているかのようにも思える僕らを横目に、楽団に所属しているらしい女の子の二人組みがバイオリンの練習をしていた。
灰色の空の下、すべての風景は意図的に作り上げられた舞台装置のように見えて、僕がここにこうしていることすら、喜劇を完成させるうえでのなんらかの演出であるように思われた。灰色の空に反映されたのは僕の思いか、彼女の思いか、それとも彼女への思いからか。何事も思うようにはいかない気がしている。