違い

僕らは、明かりの消えたデパートの軒先でキスをしました。
行き交う人々に見つからないように辺りに目を配りつつも、
見つかってしまってもいいかなと、どこかお互いに了解しながらキスをしました。


雨の強い日でした。
僕の持っていた小さな折り畳み傘では、この強い雨から頭を濡らさないようにするのが精一杯でした。
終電の近くの駅前は、家路を急ぐ人々が時々、肩をすぼめながら通り過ぎていました。


彼女には恋人と呼べる人がいました。
それでも、僕らの間にある、微妙な親密さは消えることはありませんでした。
それは、彼女が、ある種この"遊び"の関係を楽しんでいたように思えたからです。


ただ、僕の方はといえば、この関係に"遊び"以上の何かを求めていました。
あわよくば、と心の何処かで企んでいたのだと思います。


その思いは、結果、このキスへと向かってしましました。
"遊び"以上の何かを求めていることを告げると、彼女は困ったような顔をした後、曖昧に微笑みました。


僕もまた、曖昧に微笑み返しました。
とりあえず僕は、彼女の微笑みを保留しました。
あるいは、僕は判断を無意識的に中空に留めておくことにしました。
思考停止。


僕は再びキスをしてやりました。
さっきのとは違うニュアンスを込めてキスをしてやりました。