ノスタルジア / アンドレイ・タルコフスキー

ノスタルジア [DVD]

ノスタルジア [DVD]

緑豊かなイタリア・トスカーナの大地に、ロシアの家が出現する。霧、靄、風に溢れた自然の中で、水が滴り、炎が詩集を静かに焼いてゆく。詩人の望みと、疲れた心を灰と化するかのように……
 『ノスタルジア』は、『アンドレイ・ルブリョフ』『惑星ソラリス』で「ソ連映画界の異端の巨匠」の価値を確立したアンドレイ・タルコ○スキーが、初めて国外で監督した映画である。美しすぎるほどの映像世界は、全世界から絶賛を受け、1983年カンヌ国際映画祭では、特設された創造大賞に輝いた。
 その『ノスタルジア』が、製作20周年を記念して、ニュー・プリントでリバイバルされる。陰影に富んだ映像と、デジタル前夜の技術を駆使した繊細な音響が、映画館の空間に甦る。
 主人公の学者、ゴルチャコフは、ロシアにあっては祖国と同化できず、憧れの南国イタリアへ旅行しても、心の安息を得られない。そして「第三の祖国」——すなわち、魂のふるさとを追い求め、自分の分身のような「聖なる狂人」、ドメニコに出会い、世界を救うために、蝋燭の儀式へと導かれてゆく。
 中世からルネッサンス期のフレスコ絵画と、モダン・アートが一体化したような美術。詩の一節や過去の芸術作品を、「記憶」のように呼び起こしてゆくセリフ。その合間に、息継ぎのように表れる故郷ロシアの白黒映像。これらの要素がひとつの有機体となり、見るものの心を「魂のふるさと」へと誘ってゆく。
 天才監督○ルコフスキーの才能と、イタリアの陽光との一期一会が実現した、映画の奇跡。20年の歳月を経て再臨する、この奇跡を体感できる歓びが待っている。

馬場広信
[映画研究・近著に『タル○フスキー映画』
みすず書房

引用元http://www.zaziefilms.com/nostalghia/