小糠雨,22:08の憂鬱
夏の始まりを告げるかのように、緩い雨が降る。
雨は、あのあぜ道を濡らし、あの街へ続く線路を濡らし、あの遠くの街を濡らす。
寝心地の悪いシートで何度も寝返りを打ち、目は瞑ったまま、街の火が水に滲ん
でいく様を想像する。


無機質なイメージは非現実的であるがゆえに、心地よい。
僕は,そう,僕なりに疲れているのだ.はたから見れば,なんでもないようなことに.
人は、人間関係にバランスをあずけなければ生きていけない。思ったようにはいかない、そんなことばかりなのだ。


ちゃちな想像は、次第に現実の色を失い、僕の手には負えない夢の中へと移行す
る。
一時間もすれば、家に着くのだろう。それまで、もうしばらく、このままでいさ
せてくれ。


僕は,眠い.



記憶は次第に曖昧になって、溶け合ってしまう。今や食べかけの綿飴みたいな、
漠然としたイメージしか残っていない。
家の父は仕事柄、転勤が多く、そのたびごとに僕らを色々なところに連れていっ
てくれた。そんな帰り道の車内。
幼心にも、相応におもんばかることはあったの
だ。